YS's blog

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You only live once. ― 人生は一度きり

若者の街、アイラビスタ

住民の大半が学生で構成されているアイラビスタはカリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB)のすぐ東側に位置する小さい町である。

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一年中快晴の地中海性気候(冬に少し雨が降る)のせいか、ビーチ沿いのせいか、学生街だからか、治安はとても良い。ビーチに隣接しているので街中には夏冬関係なく水着姿の学生が散見され、ビーチではサーフィンしている学生も多い(例えばある学生の一日の様子がYoutubeにある=>A Day in My Life at UCSB )。下記は2021年1月に撮影したアイラビスタのビーチの写真である。(気温は15-20℃くらいだった。) f:id:yseeker:20210727141329p:plain

デルプラヤ

アイラビスタのデルプラヤ(Del Playa Drive)というビーチ沿いのストリートは現地ではかなり有名で、第3セメスター(semester)後の春休み明け(4月頭)になるとデルトピアと呼ばれる盛大なパーティーが街中で開催される。このパーティーのために、ときにはカリフォルニア中からこの小さい街に学生が集まるとも言われている。このデルトピアのためか、UCSBは全米でも有数のパーティー大学としても有名である。もっともデルプラヤではデルトピアの日に限らずほとんど毎日各家でパーティー(日本で言うところの学生の宅飲みだが、爆音で音楽をかけながら庭で(時として上裸または水着で)謎のテーブルゲームをしながら行う点が異なる)が行われているのでパーティー三昧の学生生活を謳歌したければデルプラヤのどこかに住むのが良いし、そうでなければなるべくデルプラヤから離れた場所に部屋を借りるのが賢明である。ちなみに私は後者を選択した。

スケボー文化

アイラビスタにはスケボーが自転車並に使われている。平時であれば自転車よりも多くみかけるかもしれない。UCSBキャンパス内にはスケボーの専用レーンがあるほどである。裸足でスケボーに乗っている人もいれば(街中には裸足の人が意外に多い)、サーフボードを抱えながら乗りこなす人もいたりする。

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ポスドク@UCSBでの実験について

Broida Hall (物理学棟)

Broida Hallは、カリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB)のキャンパスの東側にある物理学科の建物で、ここに各研究室の居室や実験室などがだいたい入っている。 f:id:yseeker:20210727140937p:plain
実験室の近く。実験室の扉を開けるとすぐ外に出る。液体窒素などの汲み場はすぐ近くにあり、便利である。 f:id:yseeker:20210727141728p:plain
研究グループの居室。窓が無いのが残念。 f:id:yseeker:20210727141751p:plain

サンプル作製と測定

サンプルの作製

実験では、まずスコッチテープ法という手法(2010年ノーベル物理学賞)でグラファイトや六方晶窒化ホウ素などを劈開して(スコッチテープで手で剥がしていく)それらの原子層(ナノメートルスケールの厚さのもの)を準備する。これらを積層する(重ねる)ことでサンプルを作製する。私の研究では各層(主にグラフェン)の結晶方位に対する相対角度を制御して積層していき、モアレ構造を作成する。(例えばこちらの記事を参照。)実際のサンプル作製に関しては下記のYoutube動画が分かりやすい。

  • スコッチテープ法に関して


- 原子層の転写に関して



実際の原子層の光学顕微鏡の写真。右から六方晶窒化ホウ素、グラフェン、六方晶窒化ホウ素。これらを積層するとその下の写真になる。 f:id:yseeker:20210727141834p:plain
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バイス加工

積層したサンプルをデバイスに加工する。これらのプロセスはキャンパス内の共同利用施設であるクリーンルーム(UCSB Nanofabrication Facility)で行う。企業なども利用でき(ただしかなり高額)、例えばGoogle量子コンピュータ部門(サンタバーバラ近くのGoletaにある)もハードウェアの部品の作成などに利用している。クリーンルーム内の装置(主に走査型電子顕微鏡、Etching装置、蒸着装置)を利用して、加工していく。
UCSB Nanofabrication Facility f:id:yseeker:20210727140837p:plain
クリーンルームf:id:yseeker:20210727141809p:plain
Wet bench:試薬の使用など。 f:id:yseeker:20210727141654p:plain
走査型電子顕微鏡: デバイスのデザインのパターニングに使用。装置の詳細はこちら ) f:id:yseeker:20210727141647p:plain
電子ビーム蒸着装置:電極の作成に使用。装置の詳細はこちら ) f:id:yseeker:20210727141702p:plain

完成したデバイスの例がこちら。デバイスのサイズは10-20マイクロメートル程度である。このデバイスは実際に論文中のデータ取得に使ったものでこの論文 (arXiv版)中のDevice #1と同一のものである。 f:id:yseeker:20210727141757p:plain 実際にどのように電極がデバイスに電気的に接しているかはこちらの論文を参照。

測定

バイスが実際に測定可能か、つまり最低限電気的にコンタクトがとれているか、ゲートがリークしていないかをプローブステーションでチェックする。針のようなもの(プローブ)を電極パッドに接触させて、任意の電極間の抵抗値などを測定する。 f:id:yseeker:20210727141721p:plain

冷凍機に入れるためにまずこのような冷却用プローブの先端にデバイスを設置する。 f:id:yseeker:20210727141844p:plain

希釈冷凍機(写真左側の大きい白い円筒状のもの)で最低温度10mK(つまりセルシウス度で-273.14℃、絶対零度よりも0.01℃だけ高い)まで冷却し、デバイスの特性、例えば電気抵抗値や量子キャパシタンスなどを測定する。希釈冷凍機の仕組みはこちら。冷凍機や測定装置の制御にはLabRADを用いていた。 f:id:yseeker:20210727141814p:plain

そこまでの低温が必要ない場合は液体ヘリウム(+減圧)を用いて、1.5Kまで冷却して測定を行う。希釈冷凍機が最低温度10mKまで10時間程度かかるのに対して、こちらは2-3時間で最低温(1.5K)までいくことができる。写真の冷凍機は今のラボができる前にこの実験室を使用していたラボが数十年前に購入し使用していた(古代の)冷凍機でメンテナンスが大変である。 f:id:yseeker:20210727141803p:plain
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研究テーマと論文

UCSBでは、twisted2層グラフェンという2枚のグラフェンをある特定の角度(1.1度)だけずらして積層させた構造の超低温における量子現象の研究を行っていた。

関連ビデオポスドク時代のボスの講演):https://online.kitp.ucsb.edu/online/bands-oc20/young/rm/jwvideo.html

論文

公募状況のうわさ

PIポジションを目指している人なら公募の状況、例えばどの大学に誰が面接まで残っているのか、という情報を知りたいのではないだろうか。アメリカの物理関連分野では、そうした公募情報の"うわさ"を掲載しているwebサイトがある。CM/AMO Rumor Millである。公募情報はもちろん、誰がどの大学の面接に呼ばれたか、誰がオファーを受け、誰が断ったかなどが書いてある。※あくまで"うわさ"である。

海外版逆評定

東大に在学していた頃は時代錯誤社が発行している「逆評定」という邪神・大鬼・鬼・仏・大仏・神などの指標で学生が大学の先生を評価するキャンパスマガジンにとてもお世話になったが、そのような媒体は欧米圏(主にアメリカ)でも存在するらしい。Rate My Professorsというwebサイトである。

ちなみに現ボス(ポスドク時代のボス)の評価はこちらである。

アメリカ生活ミニマムセットアップ(ポスドク@サンタバーバラ版)

初めてアメリカに来たのは、修士1年の頃、アメリ物理学会デンバーAPS March Meeting)に参加したときのことだった。それから4年半後にアメリカ(カリフォルニア・サンタバーバラ)で生活することになるとは夢にも思ってなかった。

サンタバーバラは海がとてもきれいなリゾート地である一方、リゾート地であるが故に田舎なので例えばニューヨークやボストン、ロサンゼルスなどと比べたらほとんど日本人がいない。もちろん知り合いなどもいなかった。そのためネット上で日本語で検索できる情報にはかなり限りがあり、事前準備や生活のセットアップで未知数なところがいろいろあった。そこで、もしサンタバーバラを含め、アメリカの都市部/田舎でポスドクなどを始める場合に参考になればと思い、そして自分が万が一またアメリカに行くことになった場合の備忘録として自分の場合の(でもある程度汎用的な)海外生活ミニマムセットアップを書き残してみる。

渡米前

  • ビザの取得(渡米2-3ヶ月前):ビザが無ければ入国できないので最重要事項である。ポスドクで行く場合はJ1ビザが必要。取得は他のH1Bなどの労働ビザに比べたら圧倒的に簡単。普通は落ちないらしい。詳細情報/必要書類は公式webを参照。DS2019(滞在/労働許可証のようなものでビザと同程度に重要)などの必要書類を大学から手に入れたら(大学の事務は遅いことがあるので、必要であればリマンドを絶えず送ったほうが良い)、面接の予約が埋まってたりするので例えば出国2-3ヶ月前に準備を始めるほうが良い。

※以下の渡米前の準備は必ずしも必須ではないし、個人の価値観に左右される部分だと思う。私は渡米直後の面倒を最小限にするために行った。

  1. 銀行口座の開設(渡米1-2ヶ月前):銀行口座は渡米後にももちろん開設できるし、その場合はChase銀行が人気である。私は渡米後の面倒を1つ減らすために渡米前に日本にいながら現地のユニオン・バンクの口座を開設できる三菱UFJ銀行パシフィックリム・カンパニーベネフィット・プログラムを利用した。日本に本帰国後も口座を閉じる必要はなく利用可能である。

  2. 家探し(渡米1ヶ月前):家探しは渡米後でもできるし、実際の部屋を見てから決めたいという人も多くいると思う。私は決め打ちでどんとこい派なので日本から契約できるなら契約したかった。ネットで調べるといろいろな方法があるが、例えば大学関係者の場合は"大学名 Housing"で検索すると専用のwebがある場合があり、そこから探すこともできる。私はUCSBのhousing専用サイトから探して、渡米前に決め打ちで契約した。すでに現地の口座とそれに付随するクレジットデビットを持っていたので契約は楽だった。サンタバーバラの治安の良さは日本と同等以上なので(サンタバーバラアメリカではない、と言われるくらいに治安が良い)、家の場所を考える際に治安はそこまで考慮しなかったけど、そうでなければ治安が比較的に良い場所の部屋を借りるのが良いと思う。部屋タイプとして単身または夫婦で住む場合は、Studio(日本で言うところの1K)かone bedroom(日本で言うところの1LDK)がちょうど良いと思う。2021年のサンタバーバラの平均家賃はStudioで1000-1500USD/月、one bedroomで1500-2000USD/月くらいである。(毎年値上がりしている。)

  3. 荷物を船便で発送(渡米3週間前):家が決まったので、必要な荷物を現地の住所にクロネコヤマトの海外引越単身プランで送った。ダンボール9箱分のミニマムコースで料金はおよそ10万円。服や下着、靴(現地だとサイズが合わないかもしれないので)、デスクトップPC、モニターx2, 炊飯器(大半のものは渡米後に揃うけど、ご飯が食べたい人は炊飯器は日本で買って送ったほうが良い気がする)、シャンプー、リンス、ボディーソープなどを送った。場合にもよるが、平時であれば1ヶ月程度で届く。本などは渡米前に可能な限りPDF化した。

  4. 現地で使えるSIMカードをHanacellで契約(渡米2-3週間前):これも渡米後に契約できるし、現地のプランの方がお得かもしれない(あまり調べていない)が面倒くさがりの私は日本で渡米直前に契約した。大学と家との往復なので基本的にWifiしか使わないし、モバイル通信であまり困ったことはない。

渡米後

※実際に最初に住んだ場所はシェアハウスだったので電気ガスの契約と必要な家具の注文は必要なく、それらについては現地で引っ越し後の話である。

  1. 電気・ガス・水道・ネットなどの契約(渡米直前or初日):これらが無ければ生活できないので初日あるいは渡米直前にネットまたは電話で契約する。
  2. 必要な家具を注文(渡米初日):寝具がなければ始まらないので、寝具を買いに行き、Amazonなどでその他家具(机や椅子など)を注文。
  3. 職場のIDカードや雇用者番号の取得(初出勤日):初出勤日にいろいろ手続きして雇用者番号とIDカードを取得。職場の健康保険にも加入する。
  4. ソーシャルセキュリティーナンバー(SSN)の取得(渡米後1ヶ月以内):現地で雇用されている場合は必須の納税者番号である。(海外学振など日本から給料が支払われている場合はどうなのか良くわからない。)雇用者番号などの情報が大学のシステムに反映されたら(1-2週間くらいかかった)、最寄りのソーシャル・セキュリティー・アドミニストレーションオフィスに行き、SSNを取得する。毎年4月15日が(日本でいうところの)確定申告の締め切り日なので忘れずに行う。ちなみに私達、国外からの一時的な労働者にとって最も大事なもの(書類)はパスポート、ビザ、労働滞在許可証(例えばDS2019)であるが、アメリカ国民にとって命の次に大事なのはSSNと言われるくらい大事なものなのである。

  5. 運転免許の取得(必要であればなるべくはやく):私は運転免許を取らなかったので詳細は分からないが、よほどの都市部でない限りは運転免許があったほうが便利だと思う。(生活には困らなかった。)パスポートの代わりに身分証明書にもなる。

初見では難しい、でも単語は簡単な英語表現

渡米直後は半分以上英語が聞き取れず、非常に苦労した。聞くだけでもこんなに苦労したのだから、話す方が3歳児以下だったのは想像に難くない。今考えても(話せなさすぎて)クビにならなかったのが不思議なくらいである。クビにならなかったのは、ラボのデフォルトのコミュニケーションツールがslackだったからかもしれない。(slack, もっといえばemailがない時代だったら僕は1週間でクビになるレベルだったし、そもそも採用されていないと思う)対面でも最大限コミュニケーションをとるように努力したとはいえ、最初の3ヶ月いや半年くらいはコミュニケーションの面で非常に迷惑をかけてしまったと思うと大変申し訳ない。(これでも渡米前の半年は英会話教室に行きつつ、海外ドラマを英語字幕で見るなど一応の努力はしたつもりだった。)あれほど英語がしゃべれたら、あるいはリスニングだけでも日本語レベルでできればと思った期間はなかったと思う。3年弱の間、メンバーの半分くらいがネイティブの環境で仕事をしたかいもあり、少なくともリスニング力に関しては格段に向上したと思う(当社比)。専門のディスカッションではあれば(知らない単語がない限り)90%は聞き取れる"気がするし", 日常会話でもローカルネタでなければ80%は聞き取れるようになった"気がする"。スピーキングも毛が生えた程度には向上したと思う。

渡米当初の英語の苦労の要因はいろいろあるが、発音がわからず聞き取れない以外で大きな要因を上げるとしたら、日本の中学で習うような単語の組み合わせのはずなのに聞き取れても初見で意味を汲み取れないものが思いの他多かった点だと思う。特に頻出だった初見で難しい、しかし簡単な英語表現をいくつか列挙してみる。(以下の各コメントは、完全に私の主観で、英語の専門家の解説では決してない。)1と2が個人的にぶっちぎりで初見殺しの表現である。

  • I would 〜
    (例) I would try this experiment.
    (訳) 私"なら"この実験をする=>この実験をやってくれ。(丁寧な命令表現)
    I would 自体は例えば丁寧な表現、あるいは婉曲するために使われるというのはどこかで習った気がするし、これは間違いではないと思う。ただ上記のI would の使い方は初見殺しで、どこかのwebページによると If I were you, が省略されている仮定法の表現らしい。したがって訳は、私"なら"この実験をする、つまり、この実験をやってくれ(これを命令と捉えるか、提案ととらえるかは文脈にもよる)、となる。多分仕事を指示する、あるいは代案を提案する場面だと頻出の使い方なのではないかと思う。ついついYou should と言ってしまいたくなる場面で I would を使えるとネイティブに一歩近づけるのではないかと思う。これとは違う使い方だけど、I thinkの婉曲版にI would sayというのもあって、これも一日に何回も聞く表現である。

  • want to 〜
    (例) Wanna grab food? (正式ver. Do you want to grab food?)
    (訳) 何か食べにいかない? (この場合はlet's とほぼ同義だけど、〜してくれない?みたいなお願いの意味になるときもある)
    この例文のgrab food(食べに行く)もなかなかの初見殺しだけど、want to の意味を知ったときにはそんなん知らんわってなった。恥ずかしながらwant to といえば中学で習った「〜したい」の意味しか知らなかった。英語圏に行くときにDo you want to 〜? あるいは単にWanna 〜?と聞かれたら脳内でLet'sまたはCan you に変換すると良いと思う。これの亜種にDo you want me to 〜(私に〜してほしい?つまり、私が〜しましょうか)もあってこれは、Shall I とほぼ同義である。

  • walk through 〜 (あるいは walk 人 through 〜)
    (例) Can you walk through this process?
    (訳) このプロセスを一通り説明してくれる?
    Explainとほぼ同義。知らないと知らないイディオムである。ラボでも頻出だし、多分ビジネスの場でも頻出だと思う。

  • I am not big fan of 〜
    (例) I am not big fan of baseball.
    (訳) 私は野球が好きじゃないんだ。
    要するに、I don't like。英語での婉曲表現。英語(あるいはアメリカでは?)では否定的なことを言うときにこのような婉曲表現を用いることが多いと思う。多分ストレートにI don't like というと強すぎる印象を与えてしまうのだと思う。他にもいろいろあった気がするが思い出せない。

  • might want to 〜
    (例) You might want to look over this document in advance.
    (訳) 前もってこの文書を目を通しておいた方が良い。
    これも婉曲表現で、「~したほうが良い」の意味。slack上であるいは論文の査読コメントでよく見かける。口語では比較的聞かないので書き言葉なのだろうか(私が聞き取れていない可能性が多分にある。)

  • Do you mind if I〜 または単に Mind if I〜
    (例) Mind if I use this tweezer?
    (訳) このピンセット使ってもいい?
    これもよく日常で耳にする表現でCan Iよりも丁寧な許可を求める表現(これは高校かどこかで習った気がしないでもない)。難しいのが返答で、Mindは「気にする」の意味なので直訳すると、「あなたは、私が〜したら気にする?」の意味になる。「気にしないよ」、と返答する場合は、Noが文法的に正しい表現になる。しかし、許可をとっている疑問文にどうぞといいたい場合はYesと答えてしまいたくなるのが人情である。ネットをいろいろ検索すると、返答例としてNo, not at allとかSure, go aheadなどが出てくる(Sure自体は返答として文法的には正しくない。)要するにYes、Noだけでなく一言付加的にGo aheadやNot at all, please do soなど付け加えることで誤解がなくせて良いということらしい。ちなみに私はピンセットが英語でtweezerであることをアメリカに行くまで知らなかった。

  • works for me
    (例) That works for me。
    (訳) 私はそれでいいよ。
    「この日のこの時間でどう?」という質問に対して「それで問題ないよ」という返事をする場合に使う。このような質問に対してはこの返答一択なのではないかというくらいよく使われる。works自体、「うまくいく」という意味でとても良く使われる。例えば「これはうまくいくよ」というときはシンプルに"This works"という。

"This is a pen"の代わりにこういう(単語は簡単な)実用的な英語を中学高校で教えて欲しかった。

おまけ

  • take it away : では、はじめて下さい。
  • At the end of the day : 結局のところ
  • Long story short〜, Bottom line is 〜:結論を言うと

ラボの選び方

一般論

人生は生きてるだけで丸儲けである。生き続けるためには心身を健康に保つことが大切である。したがって、ラボ選びで重要なのは、国内国外限らず心身を健康に保てることができるラボを選ぶことである。特に心理的安全性が保障されているラボを選ぶことが重要であると思う。そんなこと当たり前じゃないかと思う人も多いかもしれないが、当たり前と思っていても実行できないのが人間である。ラボ選びは人生を左右するといっても過言ではないと思う。(さてこんなことを冒頭から偉そうに書いている自分は心身の健康を気にしてラボを選んだのかと言われると後述の通り全くそんなことはないので、私も人間であるし、全くもって説得力がない。)アカハラパワハラが存在すると予めわかっているならばそういうラボは避けたほうが良いのは言うまでもない。あからさまなアカハラパワハラが存在しなくともボスやスタッフとの相性が悪く、精神的に来る場合もあるので難しいところである。ある人にとってベストな上司が別の人にとってベストな上司とは限らない。

次に実験系のラボの場合(ここでいう実験系というのは研究がパソコンだけで完結せず、試薬や生物、大規模な実験装置、ロボットなどを用いる分野を指す)は、なるべく研究設備が整っていて、可能な限り研究費が潤沢なラボを選ぶほうが良い。研究設備とお金が潤沢にあればやりたいことはだいたいなんでもできる。時々研究テーマ"だけで"ラボを選ぶ人を見かけるが、研究テーマだけでラボを選んでも、そもそもそのテーマをやらせてもらえないかもしれないし、研究設備とお金がなければ研究の土俵に立てないかもしれないし、研究の興味が時間とともに変わるかもしれない、のであまりおすすめはしない。(理論系のラボの場合は研究テーマ重視で選んでも問題ないと思う。)研究テーマに関しては"興味がある"あるいは少なくとも"興味がなくはない"くらいでスクリーニングして、あとはなるべく研究設備が整っていてと研究費がたくさんあるラボに行くほうが多くの経験を積めると思う。

さて以下の2つはオプショナルである。上で書いたことに比べたら些細な違いなのであまり気にしなくていいと個人的に思う。

  • 大規模な研究室(例えば20人以上、この辺の感覚は分野によって違うと思う)か小規模な研究室(5人くらい?):どちらも一長一短で英語で検索するとこの手の議論がたくさん出てくるので興味があれば読むと良いといいと思う。

  • いわゆる大御所のラボか立ち上げ直後のラボ:これもラボの立ち上げに関わりたいかそうでないかによる。ちなみに大御所のラボにいっても必ずしも成果が出るとは限らない。成果を出したいなら(そのラボからの)成果が直近でたくさん出ているラボに行ったほうが良いと思う。

海外ラボの場合

上記に加え、海外ラボの場合はなるべく非英語圏の特定の人種に偏っていないラボに行くことが重要だと思う。例えば中国人が90%以上を占めるラボで使われる言語は間違いなく中国語だし、このようなラボに中国人以外の方が入って、数ヶ月や1年で去る話はいくつか聞いても、大活躍して論文を出しまくっている例は聞いたことも見たこともない。(もちろん中国語が堪能なら話は違う。)日本人に限らずこの点を見落とす人は意外にも多い。私はネイティブっぽいメンバーが半分以上いるところだけをラボ選びの際に探した。

自分の場合

学部&大学院:私の出身の東大物理工学科では研究室選びは4年次の最初のじゃんけん大会(2012年の話、現在はくじ引きらしい)で決まる。希望の研究室を黒板に書いて定員よりも多かったらじゃんけんをして決める。負けたら"相対的に"人気のない研究室に行くことになる。この毎年恒例のじゃんけん大会は、学科のイベントとして1年で最も盛り上がる日の1つだったのではないかと思う。私は当時研究テーマだけでラボを選び、運良くじゃんけんを制し、そのラボで学部4年から博士3年までの6年を過ごした。

海外ポスドクアメリカに行くならカリフォルニア、研究するならカリフォルニア、住むならカリフォルニアという感じで圧倒的にカリフォルニアバイアスがかかった状態でラボ選びを行った。天気が良ければ全てハッピーくらいの能天気ぶりである。学部&大学院時代のボスが当時60歳くらいの教授だったので、逆に独立から数年以内のラボに行ってみたかった。カリフォルニアという条件を除いても、自分の興味、独立から数年以内という条件、上記の通り人種の偏りが少ないという条件、現在成果を出している/これから成果を出しそうという"雰囲気を感じる"ラボはニューヨークに1つ、カリフォルニア・サンタバーバラに1つ(現在所属のラボ)しかなかった。ちなみに現在所属しているUCSBのラボ(雰囲気を感じた方)は、当時ボスが独立から2年目のラボだったということもあり、私がメールで応募したとき(2017年8-9月くらい)にはラボの出版論文は1つもなかったし、大学院時代のボスは現ボスのことを全く知らなかった。(大学院時代のボスからはコネのあるラボをいくつか紹介されたが、若手のラボではなかったか、もしくは上記の人種のバランスの条件を満たさなかったので、最優先の候補にはしなかった。)メールで応募し、スカイプインタビューなどをした数カ月後、運良く現地の研究機関からElings Prize Fellowshipというポスドクフェローシップを頂けることが決定し、現在所属のラボに行けることになった。当時は論文がまだ1本も出ていない立ち上げから間もないラボに行くことに一抹の不安を感じたが、"ええい、ままよ"式の意思決定は自分の人生経験上意外にも成功することが多いので、とりあえず出たとこ勝負という気持ちで行くことにして、念願のカリフォルニアでのポスドク生活が始まった。